「この仕事はもう誰もわからない…」
「あの人が辞めたら、本当に回らなくなる…」
これは属人化の典型です。特定の個人しか業務を把握しておらず、その人が不在になると業務が停滞してしまう——この組織の脆弱性を解消するのが「脱属人化」です。
属人化がもたらす経営リスクから、明日から実践できる解消の3ステップ、そして上層部への説得材料にもなる成功事例まで、チームを危機から救うための具体的な道筋を一緒に見ていきましょう。
属人化の危険度チェックリスト
まずは自社の属人化がどの程度進んでいるか、以下のチェックリストで確認してみましょう。該当する項目が3点以上ある場合は、早急な対策が必要です。
診断項目 | リスクレベル |
---|---|
「〇〇さんに聞かないとわからない」という業務が複数存在する | 高(担当者不在時の業務停止、意思決定の遅延) |
顧客からの問い合わせに即答できる社員が限られている | 中(顧客満足度の低下、対応の遅れによる機会損失) |
残業が特定の社員に偏っている | 高(離職率の上昇、心身の健康問題、生産性の低下) |
特定の社員が休むと業務が滞ることがある | 高(業務遅延、機会損失、顧客満足度の低下) |
重要な情報やノウハウが個人のPCやノートに保管されている | 高(情報漏洩、退職時のノウハウ喪失、データの消失) |
新人教育が担当者によってバラバラである | 中(業務品質の不安定化、社員の成長速度のばらつき) |
業務マニュアルが存在しない、または更新されていない | 中(業務品質の低下、ミスの発生、教育コストの増大) |
引き継ぎに1ヶ月以上かかる業務がある | 高(退職・異動による業務停滞、引き継ぎ期間中の生産性低下) |
これらは組織の脆弱性を示す重要な指標です。特に「業務の抱え込み」や「情報の偏在」は見過ごされがちですが、経営に深刻な影響を与える時限爆弾となっています。属人化は優秀な社員によって一見うまく回っているように見えますが、組織全体の生産性低下やリスク増大が進行しています。
属人化を放置する3つの経営リスク
1. 業務停滞とサービス品質の低下
属人化による最も直接的な影響は、業務の停滞です。例えば、案件の進捗状況が担当者しかわからず、チーム全体でのリアルタイムな状況把握が困難になると、担当者の急な休暇や退職時に次のような問題が発生します。
属人化による影響 | 具体的な損失 |
---|---|
顧客対応の遅延 | 問い合わせへの回答に通常の3倍以上の時間がかかる |
意思決定の停滞 | 重要な判断が1週間以上先送りになることも |
ミスの増加 | 引き継ぎ不足により、顧客情報の誤認識が月平均5件発生 |
残業時間の増加 | 他の社員がカバーするため、部署全体で月40時間の残業増 |
さらに深刻なのは、サービス品質の低下です。担当者によって対応にバラつきが生じ、顧客満足度の低下につながります。
2. 人材が育たず組織力が弱体化する
属人化は「できる人」に仕事が集中する構造を生み出し、結果として組織全体の成長を阻害します。
業務を抱え込むと起こる悪循環
- 若手社員が重要な業務に携わる機会を失い、成長が停滞する
- ベテラン社員は日々の業務に忙殺され、後進の育成に時間を割けない
- 組織として新しい挑戦や改善活動に取り組む余力がなくなる
- 特定の社員への依存度が高まり、その社員の負担がさらに増加する
これでは社員のモチベーション低下も避けられません。「評価されにくい」や「成長実感が得られない」という理由から、優秀な若手社員の離職率が通常よりも上昇するケースも報告されています。
3. 退職によるノウハウ喪失と事業停滞
最も恐ろしいリスクは、キーパーソンの退職による事業への直接的な打撃です。長年蓄積されたノウハウや顧客との関係性が、たった1人の退職で失われてしまうのです。実際にあった製造業の事例では、ベテラン技術者の退職により、以下のような損失が発生しました。
ノウハウ喪失による損失例
- 特殊な加工技術の再現に6ヶ月を要し、その間の受注機会損失が発生した。
- 主要顧客との信頼関係が崩れ、年間売上の20%にあたる取引が他社に流出した。
- 新たな技術者の採用・育成コストとして約800万円の追加投資が必要になった。
このような事態を防ぐためには、日頃から計画的な脱属人化の取り組みが不可欠です。
脱属人化の成功事例3選
CASE1. 電気・空調設備工事におけるSuemaru FT INNOVATORS 株式会社の事例

電気・空調設備工事を主軸に事業を展開するSuemaru FT INNOVATORS 株式会社は、業務管理システム「プロワン」を導入し、これまで課題であったExcelによる属人化した案件管理体制を刷新することで、事業基盤の変革を進めています。
特徴 | 活用方法 | 効果 |
案件情報の一元管理 | 個別のExcelで管理していた案件・見積もり・請求情報を集約 | 情報の属人化を解消し、発注・請求漏れのリスクを低減 |
見積もり作成機能 | 担当者ごとに行っていた見積もり作成業務をシステム上で統一 | 見積もり業務の標準化と情報連携の円滑化を実現 |
協力会社管理 | 約100社の協力会社情報をシステムで管理し、担当者間の判断基準を平準化 | 属人的な判断をなくし、サービス品質の均一化を推進 |
伴走型の導入支援 | 専任担当者によるヒアリングを通じて、自社の業務フローに合わせてシステムを構築 | スムーズな導入と運用開始を実現し、社内の業務改革を促進 |
千葉・東京・大阪の3拠点において、これまで各担当者が個別のExcelファイルで管理し、発注・請求漏れの原因となっていた案件情報を一元化、属人化を解消しました。手厚い導入支援により、自社の課題に最適化されたシステムをスムーズに構築し、人に頼る業務から仕組みに頼れる体制への移行を実現しています(※1)。
電気・空調設備事業の変革事例
- Excelでの個別管理がなくなり、全社的なリアルタイムでの情報共有が実現
- 担当者ごとに異なっていた業務プロセスが標準化され、業務品質が安定
- 情報の連携不足に起因する発注漏れや請求漏れを防止する仕組みを構築
- 協力会社の管理基準が平準化され、担当者の経験に依存しない対応が可能に
※1 プロワン「Suemaru FT INNOVATORS 株式会社」
CASE2. イベント企画・運営における株式会社セブンサービス企画装飾の事例

建築儀式式典や行政イベントの企画・運営を手掛ける株式会社セブンサービス企画装飾は、業務管理システム「プロワン」を導入し、長年の課題であった属人化した情報管理体制を刷新。全社的な情報共有を円滑化し、「人に依存しない」新たな事業基盤を構築しています。
特徴 | 活用方法 | 効果 |
---|---|---|
案件情報の見える化 | ホワイトボード管理を廃止し、案件進捗・収支・担当者情報をシステムで共有 | 全社でリアルタイムに状況を把握でき、属人化を解消 |
現場アプリ | 外出先からスマートフォンやタブレットで見積もり作成や進捗確認を行う | 場所に縛られない働き方を実現し、見積もり作成の順番待ちを解消 |
見積もりテンプレート・複製機能 | 過去案件の情報を活用し、見積もりを効率的に作成 | 担当者ごとのバラつきをなくし、見積もり業務を標準化 |
柔軟なカスタマイズ性 | イベント業界特有の「本番日」を軸とした案件管理フローをシステム上で構築 | 自社の業務フローに合わせた運用が可能となり、スムーズな情報共有を実現 |
本社では、これまでホワイトボードや各担当者が個別に管理していた月100件以上の案件情報を一元化し、全社員がリアルタイムで進捗や収支を把握できる体制を構築しました。これにより、担当者不在時の対応が困難であった状況を改善し、組織全体の業務効率を大幅に向上させています(※2)。
イベント設営・運営事業の変革事例
- 担当者しか把握していなかった案件情報が全社で共有され、引き継ぎが容易に
- 見積もり作成が特定のPCに限定されなくなり、営業担当者が外出先でも対応可能に
- 案件の進捗や収支状況が可視化され、経営判断の迅速化に貢献
- 業務フローが標準化され、「人に依存しない」持続可能な働き方の基盤を構築
※2プロワン「株式会社セブンサービス企画装飾」
CASE3. 塗装・防水・リニューアル工事における日成工業株式会社の事例

創業70周年を迎える日成工業株式会社は、業務管理システム「プロワン」を導入し、一部の担当者の頭の中だけで管理されていた属人化した案件管理体制を刷新。案件情報を全社で可視化し、組織的な業務基盤を構築しています。
特徴 | 活用方法 | 効果 |
カンバンボード | 引き合いから完了までの案件進捗をフェーズごとに視覚的に管理 | 属人化していた進捗状況を全社で可視化し、情報共有を円滑化 |
柔軟なワークフロー設定 | 自社の業務フローに合わせて、案件管理のプロセスを自由に構築 | 独自の業務実態に即したシステム運用を実現し、形骸化を防止 |
案件・顧客情報の一元管理 | 顧客からの引き合いがあった時点から全ての情報をシステムに登録・集約 | 担当者個人の記憶に頼っていた情報管理から脱却し、組織的なデータ活用を推進 |
帳票類の統一化 | 報告書などの帳票フォーマットをシステム上で標準化(※将来活用予定) | 担当者ごとにバラつきがあった帳票レイアウトを統一し、業務品質を向上 |
千葉・東京・大阪の3拠点において、これまで各担当者が個別のExcelファイルで管理し、発注・請求漏れの原因となっていた案件情報を一元化、属人化を解消しました。手厚い導入支援により、自社の課題に最適化されたシステムをスムーズに構築し、人に頼る業務から仕組みに頼れる体制への移行を実現しています(※3)。
電気・空調設備事業の変革事例
- Excelでの個別管理がなくなり、全社的なリアルタイムでの情報共有が実現
- 担当者ごとに異なっていた業務プロセスが標準化され、業務品質が安定
- 情報の連携不足に起因する発注漏れや請求漏れを防止する仕組みを構築
- 協力会社の管理基準が平準化され、担当者の経験に依存しない対応が可能に
※3 プロワン「日成工業株式会社」
脱属人化を始めるための3ステップ
STEP1. 業務内容を洗い出す
脱属人化の第一歩は、現状の正確な把握から始まります。まずは部署ごとに以下の観点で業務を洗い出しましょう。
1-1. 頻度による分類
- 毎日発生する定型的な作業
- 週次・月次で定期的に発生する業務
- イレギュラー対応や年数回の不定期業務
1-2. 難易度による分類
- 新入社員でも1週間で習得可能
- 3ヶ月程度の経験が必要
- 専門知識や1年以上の経験が必要
1-3. リスクによる優先順位付け
- 顧客対応や売上に直結する最優先業務
- 社内の重要な意思決定に関わる優先業務
- 日常的な事務処理や定型業務
特に注目すべきは、「その人しかできない業務」の特定です。バックオフィス業務では経理の決算処理、営業部門では重要顧客との折衝、製造部門では特殊な技術を要する作業などが該当します。これらを明確にすることで、脱属人化の優先順位が見えてきます。
STEP2. マニュアルを作成し標準化する
業務の洗い出しが完了したら、次はマニュアル化による標準化です。効果的なマニュアル作成には、5つのポイントを押さえることが重要です。
2-1. 5W1Hを明確にする
- Who(誰が)= 担当者の役割と権限
- What(何を)= 具体的な作業内容
- When(いつ)= 実施タイミングと期限
- Where(どこで)= 作業場所やシステム
- Why(なぜ)= 業務の目的と重要性
- How(どのように)= 具体的な手順
2-2. 視覚的要素を活用する
- スクリーンショットや動画を積極的に活用
- フローチャートで全体像を可視化
- チェックリストで漏れを防ぐ
2-3. 実際の作業者の視点で作成する
- 専門用語は極力避け、初心者でも理解できる表現を使用
- つまずきやすいポイントは特に詳しく解説
- よくある質問(FAQ)を事前に盛り込む
製造業での技術継承の成功事例では、ベテラン技術者の作業を動画で記録し、音声解説を加えることで、文書では伝えきれない「コツ」や「勘所」まで共有することに成功しました。
STEP3. ツールで仕組み化し定着させる
マニュアル作成だけでは、真の脱属人化は実現できません。デジタルツールを活用した仕組み化により、組織全体に定着させることが重要です。
デジタルツール活用による仕組化
- 顧客データ、案件、作業履歴などを一元管理する
- 誰もがリアルタイムに最新情報にアクセスできる
- 定型業務を自動処理して、人的ミスを削減する
- 権限を管理し、適切に情報アクセスを統制する
営業から工事完了までの全プロセスを一元管理できるシステムを導入した結果、誰でもいつでも正確な進捗を確認できる体制が整った事例もあります。現場から直接の報告も可能になったことで、業務効率が大幅に向上しました。
脱属人化におすすめのツール4選
1. 業務管理システムで組織全体の属人化を解消する

脱属人化を根本から解決するには、業務プロセス全体をデジタル化し、情報を一元管理することが重要です。特に営業から施工、保守まで一連の業務を扱う組織では、プロワンのような一気通貫型の業務管理システムが効果的です。
一気通貫型システムのメリット | 詳細 |
---|---|
情報の一元化 | 顧客情報、案件進捗、原価データなどが一つのシステムに集約され、誰でも必要な情報にアクセス可能 |
業務プロセスの標準化 | 見積もりから請求までの業務フローがシステム化され、個人の判断に依存しない運用が実現 |
履歴管理の徹底 | すべての対応履歴や変更履歴が自動記録され、引き継ぎが円滑に |
リアルタイムな情報共有 | 現場と事務所の情報格差を解消し、組織全体での迅速な意思決定を支援 |
プロワンの導入により、事務作業を30%削減し、二重入力や転記作業から解放された企業も多数存在します。さらに、Excelや紙ベースの属人的な管理から脱却することで、データドリブンな経営判断が可能になり、利益率15%向上を実現した事例も報告されています。
業界特化型の機能と直感的な操作性により、システムに不慣れな現場担当者でも抵抗なく導入でき、組織全体での脱属人化を加速させることができます。
2. マニュアル作成ツールで業務を標準化
効率的な脱属人化を実現するには、適切なツールの活用が不可欠です。マニュアル作成ツールを選ぶ際は、以下の機能に注目しましょう。
マニュアル作成ツールの必須機能 | 詳細 |
---|---|
画面キャプチャ機能 | 操作手順を自動で記録し、説明を追加できる |
動画作成機能 | 複雑な作業を動画でわかりやすく説明する |
バージョン管理 | 更新履歴を管理し、常に最新版を共有する |
検索機能 | 必要な情報に素早くアクセスする |
権限管理 | 部署や役職に応じた閲覧制限する |
代表的なツールとしては、画面操作を自動で文書化できるものや、AIが作業手順を分析して最適なマニュアルを提案してくれるものなど、さまざまな特徴を持つサービスが登場しています。
3. ナレッジ共有ツールで暗黙知を形式知に
個人の頭の中にある暗黙知を形式知に変換することは、脱属人化の核心です。ナレッジ共有ツールは、この変換を効率的に行うための強力な武器となります。
ツールカテゴリ | 主な機能 | 適した用途 |
---|---|---|
社内Wiki型 | 情報の体系的な整理・蓄積 | 技術文書、業務手順書 |
Q&A型 | 質問と回答の蓄積・検索 | トラブルシューティング |
チャット連携型 | リアルタイムな情報共有 | 日常的なノウハウ共有 |
AI搭載型 | 自動的な情報整理・提案 | 大量の情報から知見を抽出 |
ナレッジ共有を成功させるポイントは、情報提供者へのインセンティブ設計です。情報共有の貢献度を可視化し、評価制度に組み込むことで、積極的な知識の共有が促進されます。
4. RPAツールで定型業務を自動化する
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは、人間がパソコンで行う定型的な事務作業を、ソフトウェアが代行・自動化する技術のことです。RPAツールを活用することで、人的ミスの削減と業務効率の大幅な向上が実現できます。
RPA導入で自動化できる業務 | 具体例 |
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データの転記・入力作業 | 受注データを基幹システムへ自動転記 |
定期的なレポート作成 | 月次売上集計表を自動作成・配信 |
メールの自動仕分け・返信 | 問い合わせ内容別に担当部署へ振り分け |
システム間のデータ連携 | CRMと会計システム間でデータ同期 |
承認ワークフローの自動化 | 稟議書の自動回付と期限管理 |
RPA導入には適切な業務選定と設計が重要です。まずは影響範囲が限定的で、ルールが明確な業務から始め、段階的に適用範囲を広げていくアプローチが推奨されます。
脱属人化は一朝一夕には実現できません。しかし、3つのステップを着実に実行し、適切なアプリを活用することで、必ず組織は変わります。属人化による経営リスクを認識し、今すぐ行動を起こすことが、持続可能な組織づくりの第一歩となるでしょう。